予防歯科の実現のために『プロケア』と「セルフケア」が協働作業で進められることが不可欠であることは周知のことですが、
「セルフケア」の指導にどのような方法を提案されていますか?
患者さん側に診査結果を
伝えるだけではなく…
診査結果に基づいた患者さんそれぞれの
口腔内リスクに合わせた具体的な予防方法を
提案することが大切。
診査結果を歯科医院側から
聞くだけではなく…
自分の口腔内の状況を知り、
自分の歯を守るための具体的な予防方法を
実践することが大切。
ブラッシング指導をはじめとした食事指導はすでに実施していらっしゃることと思いますが、
“だ液の役割や効果と、咀嚼による分泌を習慣づけること”について説明されていますか?
さまざまな口腔リスクを持つ患者さんにとって「だ液」は共通の重要キーワードといえます。
だ液の役割には自浄作用※1・緩衝作用※2・再石灰化作用などが挙げられますが、なかでもむし歯リスクの高い患者さんに特に有用なのが「刺激性だ液」です。
モノを咀嚼することで分泌される刺激性だ液はモノを咀嚼しない時の「安静時だ液」に比べると酸性に傾いた口内を中性に近づけ歯の脱灰を防ぐ『重炭酸塩』という成分が何と最大60倍※3も多く含まれています。
※1. 自浄作用とは口の中の汚れをだ液によって洗い流しきれいにする作用
※2. 緩衝作用とは酸性の口腔内を中性に戻す作用
※3. 耳下腺にて確認
<参考文献> 1)Edgar M, Dawes C,D’OMullance, 渡部 茂監訳:唾液-歯と口腔の健康-,
Saliva and Oral Health, 第4版. 医歯薬出版, 東京,
セルフケアに代表されるブラッシング指導時にチェアサイドで患者さんに実際に歯ブラシを口に入れてもらいその正しい使い方を説明し、体得してもらうようにデンタルガムも口腔内リスクとその予防メニューの提案時に実際に噛んでもらい「刺激性だ液を出す」ことを実感してもらうことが大切です。
①POs-Ca成分(水溶性カルシウム)、②緑茶エキス(フッ素含有)が、口腔内環境を整えます。
ガム2粒を10分間噛んだ時のだ液と噛む前のだ液のカルシウム濃度を比較。
紫色が濃いほど、カルシウムが多く溶けた証拠です。
さまざまな種類のカルシウムを水に溶かすと、他の成分は白く濁っていますが、
POs-Ca成分のリン酸化オリゴ糖Caは透明になります。
フッ化物イオンは化学反応性が高いため、カルシウムイオンと反応して不溶化してしまう。不溶化してしまうと、歯に浸透しにくくなり、スムーズな再石灰化反応が望めない。
フッ化物 (緑茶エキス由来)は POs-Ca由来のカルシウムとイオ ン化した状態で共存することができるため、歯に浸透しやすく再石 灰化しやすい環境を作り出すことができる。
毎食後の口腔内pHが低下したときや、食後に歯磨きができない時などにおすすめします。
(思うように歯磨きの時間が取れない方)
阿部昌子、玉澤佳純、阿部一彦、高橋信博(2001)
東北大学大学院歯学研究科研究報告書
※飲食の内容によっては、pHが中性まで回復しない場合があります。
だ液の分泌量はストレスや内服薬の種類によっては影響を受けやすい他、柔らかい食べ物ばかり食べているとどうしても咀嚼回数が減ってきます。噛み応えのある根菜などを食事に加える他、デンタルガムの活用が望まれます。
だ液検査後の個々の結果によって例えば次のような指導ができます。
まずはだ液分泌量を増やす事が大切です。
特に緩衝作用効果が高い「刺激性だ液」を出すためにも積極的にデンタルガムを活用し、口腔内環境を整えていきましょう。
良い状態です。
この状態を維持するためにもデンタルガムを噛んで口腔内環境を整えましょう。
う蝕原生菌が作る酸の強さで歯を攻撃する力が強い場合は、フッ化物を最大限利用し、菌数をPMTCなどで減少させ、食生活を改善させると同時に、デンタルガムを活用して刺激だ液の分泌を促し、緩衝能力を高めましょう。
フッ化物利用や経過観察のほか、セルフケアとして、再石灰化に有用な「刺激性だ液」の分泌を促すためにも、デンタルガムを活用して口腔内環境を整えていきましょう。
間食(不規則な食事)が多い方や、部活動を頑張っている学生の方、健康志向の方はついついスポーツ飲料や果実飲料(健康酢)を常飲しがちです。
ちびちび飲みなどで常時口腔内が酸性に傾いていると、酸で直接歯が溶ける酸蝕歯になるリスクがあります。
それら酸性飲料の常飲癖を指導すると共に、飲んだ後にデンタルガムを噛んで積極的に「刺激性だ液」を出して口腔内環境を整えることが大切です。
チェアーサイドで口腔内状況と唾液の重要性を説明された直後が最適です。
先生の説明を聞きながら、またはそのすぐ後に噛んでいただくと、唾液を出す習慣を実感しやすいです。
キシリトールは砂糖などと異なり「むし歯の原因とならない」甘味料としてオーラルケア用品に広く使用されています。
他にもマルチトールやエリスリトールなども、むし歯の原因とならない甘味料です。
その一方で、2015年に医学の科学的根拠を判断する国際NPO「コクラン共同計画」は、キシリトールが「むし歯の原因とならないこと」以上の効果を持ち、むし歯を積極的に予防する効果があるという科学的根拠は不明であるとしています※。
また、歯科やオーラルケア用品で「フッ素」という成分を耳にします。
正しくは「フッ化物」というもので、むし歯の一歩手前の状態の歯が元の状態に回復 (再石灰化) するのを助け、歯を強くする効果があります。
フッ化物については1930~40年代からむし歯予防の効果について数多くの研究が行なわれ、質の高い科学的根拠が得られています。
今日では、歯科や多くオーラルケア用品にその優れたむし歯予防効果が活用されています。
• Philip Riley et al.“ Xylitol-containing products for preventing dental caries in children and adults”, Cochrane Library, 2015.
http://onlinelibrary.wiley.com/enhanced/doi/10.1002/14651858.CD010743.pub2